巻絹(まきぎぬ)
時の帝の夢想によって、紀州の三熊野神社へ1,000疋の巻絹を奉納するため諸国へ調進を命ぜられたところ、京の都からの分がまだ届かない。上納品を携えた都の男は熊野に着いてまず音無の神社へ参り、咲き匂う梅の香を賞でて一首の歌を詠んでいた為に遅参したと分かり、官人はその男を縛って罪を責める。すると、音無の天神の霊が乗り移った巫女が現れ、この男は昨日自分に歌を捧げた者であると言って男の縄を解くよう命じる。臣下はこのような男に歌が詠めるわけがないと疑うので巫女は男に上の句を、巫女が下の句をつけて証明し縄を解く。そして巫女は和歌の徳や経の威力を説き、神楽を奏するうちに神がかりとなり、狂い舞って舞の手を尽くし、時が経つと神気が離れて本性にかえる。