花筐(はながたみ)
越前の味真野(あじまの)に住む照日前は大迹部皇子に寵愛されていた。ある日、照日前のもとへ皇子の使者から手紙と花籠が届けられる。皇子は皇位を継承(継体天皇となる、御歳58歳)されることになり都に向かったのである。それを受け取った照日前は悲しみにくれる。即位をして大和(奈良)の玉穂の宮を皇居と定めた継体天皇は、警護の官人たちに守られて紅葉狩りに出掛ける。その道筋に、侍女に花籠を持たせた狂女が現れる。見苦しいと言って官人が花籠を打ち落とすと狂女は、これは継体天皇の形見だと敬い、越前での皇子との想い出を物語って懐かしがる。狂女はさらに中国前漢の武帝が李夫人を亡くした故事を語りながら継体天皇への想いを舞ってみせる。やがて継体天皇が照日前と花籠に気づき正気に戻った照日前を再び伴って皇居に帰るのだった。典型的な物狂能の構成をとるが、継体天皇と女御の若き日の恋という、古代的で牧歌的な情調が背景に感じられる。