演目のご紹介

通小町(かよいごまち)

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八瀬の里に住む僧の所に、毎日木の実や薪を届ける女がいる。ある日、名を尋ねると、市原野に住む者と答えて消える。僧が市原野に出向いて弔うと、小野小町の霊が現れて弔いを喜ぶがそのあとを追って、やつれ果てた面ざしの四位深草の少将の霊が現れ、小町を引き留めてその成仏を妨げる。少将は、生前小町に恋をして、小町にその気がないとも知らず小町に言われた通りに百夜通ったが、あと一夜という夜に思いを果たせず無念の死を遂げ、死後も地獄で苦しんでいるのだった。少将の霊はそのことを細々と物語り、恨みを述べるが、僧の弔いで二人揃って成仏する。自由かつ大胆な構成で少将の執念とそれから逃れようとする小町の姿に人間の煩悩を見せる。少将の想いが深いほど、小町の驕慢さに恨みが増す様子である。まだ形式が固定する前の準主役的存在。「市原野べに住む姥ぞ」の詞章からすると若い女として扱う現行演出はそぐわないので、近年は「深井」「曲見」の面をつけ紅無の中年の女として演ずる場合もある。

【参考:「能・狂言事典」平凡社、喜多流謡本】